2020_16 手 紙 東野圭吾
強盗殺人を犯した兄を持つ武島直貴を中心に、犯罪者を家族に持った人間とその周囲の人たちの心理、人間模様が語られています。
題名の「手紙」は、弟を大学に行かせたいという一心から罪を犯してしまった兄、剛志の獄中からの手紙として始まります。直貴は逆境の中、苦労して通信制の大学に入り、通学制に編入し、卒業、就職を果たします。しかし、強盗殺人を犯した兄を持ったことで、様々な苦労の連続でした。やりがいを見つけたバンドからの離脱、最愛の恋人との若れ、就職先での不当な異動など。そうした生活の中でも、同じような境遇の女性と出会い、家族をもつことになります。自分のことなら耐えられるが、家族のこととなると耐えがたい。いったい誰を憎めばよいのか。そうした状況下での心境が切々と伝わってきます。恨むべきは何なのか。一方で服役中の兄の心境、直貴の周りの人たち、友人、上司、恋人などの心理状況や言動が語られます。最後には、被害者の家族の心情も語られ、もう一つの手紙が明らかになります。罪を犯したものはどう償うべきか、その家族はどうあるべきなのか、周囲の人たちはどう接すべきなのか。もし、自分がその人たちの立場だったらどうするだろうと思うと、なんとも言い難いです。今、平穏に生きていて、そのような境遇になっていないことを幸せに思わざるを得ません。非常に重い内容でした。もう一つの側面として、女性の強さも描かれているようにも感じました。