2020_26 たゆたえども沈まず  原田マハ

 ゴッホ兄弟、ヴィンセントとテオの切ない物語でした。今でこそ高値で取引されるゴッホの絵がなにゆえに生前売れなかったのか、二人の兄弟とはどんな関係にあったのか、そして、明治の初期に、フランスで日本の美術を広めた日本人が存在したことなど、感動しながら読みました。弟テオのサポートあってのヴィンセントであり、二人は固い絆で結ばれた、二人で一人、そんな感じではないかと思います。
この小説は、史実を元にしたフィクションであり、実在しない人物も登場しています。しかし、ゴッホ兄弟二人の関係、生き様はこの小説に描かれているようなものではなかったかと思います。
中心人物は、弟のテオと日本人画商加納重吉であり、画家ゴッホはやや間接ぎみに描かれています。加納重吉は、実在の人物ではなく原田さんの創作の人物ですが、ゴッホ兄弟との関わりや、実際に実在した日本人画商の林忠正の生き様など実にうまく引き立てていると思います。なお、巻末に膨大な参考資料が掲載されています。この1冊の本を書くのに、これほど多くの情報をもとに制作していることにも驚かされました。