2021_2 蒼き山嶺  馳 星周

 長野県の病院で地域医療に携わっていた医師栗原一止が、母校である大学病院で勤務するようになって2年、前シリーズからの続編です。
医師として大学院生として、そして父として、夫として過酷な勤務や日々の生活をこなしている栗原先生の医療班に、29歳の女性臓癌患者、二木(ふたつぎ)さんが入院してくる。状態は非常によくないが、栗原先生の所属する医療班は懸命の治療を施していく。大学病院という巨大医療組織の中で、二木さんの治療を通し、医療とは何なのか、医師はどうあるべきか、家族とはどういうものか、などが語られているように感じます。また、大学病院の特異性、そこで働く医師の過酷さは実体験からくるものでしょうか、迫力さえ感じるものでした。そうした過酷で陰鬱な状況では暗い内容になってしまうところ、栗原先生の医師としての思いや行動、仲間との関係や会話などが実に心地よく語られ、喜劇的でもあり、陰鬱さを吹き飛ばしてしまうものになっています。夏川さんの文章力、表現力の見事さによるものです。そして、全体を通して医師としてのあるべき姿をも語っているように思えます。おりしも新型コロナウィルスの感染拡大で、医療崩壊が叫ばれる厳しい状況の中、懸命に治療を続ける医療従事者たちの使命感、意志の強さについて考えさせられる内容でした。改めて、医療従事者に頭が下がる思いです。

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